[コミックマーケット96 新刊]
──灰色城と呼ばれる城がある。
──その城は呪われていた。
サークル「かりかりうめ」が送る、オリジナルTRPGです(A5判・162ページ)。ゲームマーケット2018秋でプレビュー版として頒布された同作が、ついに完成しました。
ゴシック小説の一様式として知られる、城や屋敷を訪れた人々が悪意ある出来事に翻弄される物語には、エドガー・アラン・ポーの『アッシャー家の崩壊』、スティーヴン・キングの『シャイニング』などの名作が数多く存在します。本作もそのジャンルに名を連ねた新たな1作。呪われた城「灰色城」を舞台に、怪奇や幻想、悲劇や破滅を味わうという一風変わった作品です。
その特徴は、「ハッピーエンド」「血沸き肉躍る冒険」「多数のデータを組み合わせたキャラクター表現」がほとんどないというところに表れています。PCの戦闘能力・スキルなどのデータは一切ありません。あるのは性格の傾向や、PC間の感情のみ。ただ、ゲームは制限があればこそ生まれる妙があり、本作はそこを生かすことでゴシックらしい雰囲気をセッションにもたらしています。
その主人公となるPCは3人。人数が決まっているのは、本作において選択と決断が特に重要だからです。PCは開始時に配られるハンドアウト「囁き」によって、2つの方向性が示されます。友人と妹のどちらが大事なのか、自分が本当に愛するのは誰なのかなどの「惑い」です。それぞれにある惑いは、いずれも二者択一の問いというべきものであり、PCはいずれを選ぶ(切り捨てる)かという答えを出さねばなりません。
この揺れ動く心を翻弄するように、灰色城では怪奇と幻想に満ちた出来事が起こります。そんなPCの心を表現するため、本作では独特のシートを用意しています。
それが、PCの心に渦巻く感情を表す「運命儀」です(サンプル画像2枚目)。アナログの時計盤のようなシートで、当初は白と黒のマーカーを、時計でいう1時頃と7時頃に配置します。マーカーとマーカーの間、時計まわりの盤面がそれぞれ、善意や平穏などを表す「白の領域」、悪意や不安などを表す「黒の領域」になります。セッション中、感情を揺さぶられる出来事に直面することで、白あるいは黒のマーカーが反時計回りに1マスずつ動くことに。つまり、善意を強くするなら白の領域が広がり、逆に不安が高まるなら黒の領域が1/12ずつ広がっていくわけです。
この領域の拡大は、想像以上にプレイヤーを悩ませます。本作で行動の成否を決めるための判定は、運命儀の中心にペンを立て、その倒れる方向の色を当てるという形式を取ります(12面ダイスでの代用も可)。このため黒の領域が増えていると、善意や友情など「白の領域」に属する理由で行動する場合に成功確率が低くなってしまうのです。また、シーン最初にも運命儀の判定を行うため、黒の領域が増えたPCが多いと、必然的にセッションは破滅へと加速していきます。
ただ、プレイヤーは暗い情念のままに怪物となることも、抗うこともできます。登場人物の葛藤や決断、交錯する人間模様を描くことが本作のテーマであり、魅力なのです。データを極力排除し、白・黒の感情による葛藤を際立たせるシステムによって、ゴシック小説のような暗い輝きを放つ物語を生み出しやすくしている本作。ゴシック小説やストーリーテリングを好む方、興味がある方にぜひ体験していただきたい作品です。
この完全版では、ルールの調整のほか、リプレイ1編が追加され、サンプルシナリオも計4本に増量されています。リプレイは収録シナリオの「帰らじの乙女」をプレイしたもの。人里離れた花嫁学校で、突如として姿を消した少女の存在が、PCたち3人の乙女に暗い影を落とします。彼女たちの決断は……。